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2004/05/14
「シリアレポート その2」 4月30日 金曜日 晴れ 我々を乗せた関空発EK317便は約11時間かけて中継地点のドバイに到着した。たとえ機内泊であっても、ぐっすり睡眠を取れたことはありがたかった。昨日までの国会での激務と慢性的な睡眠不足で溜まっていた疲れは、広大な砂漠の中にオアシスのように存在するドバイ空港を機中から見つけたときに一気に吹っ飛んだ。空から見る「砂漠の中のドバイ」はいつ見ても神秘的だ。 5時15分。時間どおりにドバイに到着した我々はEK911便でダマスカスへと向かった。気持ちが逸り、機内食に手をつける余裕もなかった。すぐ隣のイスラエルに3年もいたのに、イスラエルとはずっと遠い異国へ向かっている心境だった。事実、シリアとイスラエルの間には、その物理的な距離とは裏腹に、政治的にも国民感情的にも日本人には想像ができないほどの隔たりがある。しかし、窓の下に見えるダマスカスの街のたった60キロ先、西の空にくっきりと浮かぶマウント・ヘルモンのすぐ向こう側には、確かにイスラエルが存在するのである。やや情緒的だが、飛行機が高度を下げながら旋回していく時、20代を過ごしたイスラエルでの生活を思い出さずにはいられなかった。 イスラエル時代に感じたシリアに対する「イスラエルの存在を脅かすアラブ強健派」「テロを支援する軍事大国」のイメージは完全に払拭されたと言ったらウソになるが、自分のシリアに対する警戒心が空の上から見えるシリアの光景を眺めた時、スーと消えていくかのように感じた。 9時30分。ダマスカスに到着した我々を日本大使館防衛駐在官の飯田重喜一等陸佐、若林先生の友人の福岡史子UNDPシリア副所長、外務省の森田しずかさん、佐藤友紀さんが出迎えてくれた。宿泊先のメリディアン・ダマスカスホテルでスーツに着替えた我々は、休む間もなく一路ゴラン高原へ出発した。 ダマスカス中心部のオートーストラード通りを走っていると、「左側を見てください。ここなんです」と飯田一等陸佐。シリア時間の27日午後7時にダマスカスの東メッゼ地区で発生した銃撃戦の現場だった。爆弾により、イラン大使館とカナダ大使館の間にある国連の建物が真っ黒に焼けていた。実行者の3人を含む4人が死亡したこの事件の真相は未だ不明だが、アルカイーダ犯行説やシリアに逃げてきたサダムの残党による犯行の可能性があるとのことだった。しかし、犯行声明がないことや偶々流れ弾の被害に遭った建物が、現在使用されていない国連の建物であったことなどから、さまざまな憶測が流れているという。確かにこの事件は、「シリアもテロの被害者」「テロと戦うシリア」という印象を与え、大局から見ればバッシャール政権にはプラスの要素もある。何があっても不思議ではない。 途中、パレスチナ人の居住区と思われるエリアを通過。2台の現地人の車輌が事故を起こしていた。シリアの道路はほぼ完全に舗装され、思ったより充実している。ただ、他の中東諸国同様、人々の運転はかなり荒っぽい。相当な強引さとかなりの勇気が必要だ。自動車保険などはあってないようなものらしく、死亡事故が起きても大した保障もないという。当て逃げ、ひき逃げも少なくないらしい。「だから、私は運転しないの」と言う福岡さんの判断は正しい。しかし、事故現場以上に私の目を釘付けにしたのは、街中に張られたポスターの存在だった。 「若林先生!あれ、ヤシン師じゃないの?」 「ほんとだ・・・」 「あっ!あれあれ!あれ、ランティシだよ、先生!なんだこれ?!」 「榛葉ちゃん。二人のツーショットもあるよ!」 街のあちこちに貼ってあるポスターの主は、なんとイスラム過激派ハマスの精神的指導者で先日イスラエル軍に殺害されたヤシン師とランティシ氏だった。私はシリアではなくガザの街を走っているかのような錯覚を覚えた。 私が驚いたのには理由がある。シリアはイラク戦争後の昨年5月以来、米国務省が「テロ組織」に指定しているハマスの国内活動を禁止してきていたはずだからだ。対シリア制裁法などをちらつかせて、米国が相当な圧力を掛けてきたことは言うまでもないが、シリアはハマスと一線を画してきていたのだ。しかし、私の目の前にあるポスターの写真は、紛れもなくヤシンとランティシ。つまりそれは、シリア政府がハマスのシリアでの活動再開を公然と認めたことを意味し、対米、対イスラエル関係に大きな影響を与える可能性を示唆するものである。(事実、このコラムを書いている本日5月12日AM10:24、ブッシュ大統領がシリアに対する経済制裁を発動する大統領令に署名をしたというニュースが飛び込んで来た!)ヤシン師の追悼集会にバース党の幹部や政府の要人が出席したという新聞記事を以前見たことがあったが、シリア国内でのハマスの高い支持を皮膚で感じることができた。パレスチナ問題が、イラクを含むさまざまな中東情勢に大きな影響を与えている顕著な例だと思う。 車窓の外には、頂上に残雪をかぶった雄大なマウント・ヘルモンの姿がある。いよいよゴラン高原、UNDOFのファウアール宿営地へ到着だ。 |
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